網膜色素変性症は、眼の中で光を感じる組織である「網膜」が少しずつ侵されていく進行性の病気で、網膜の働きをコントロールする遺伝子の異常から起こります。日本では、人口10万人に対して18.7人の患者がいると推定されています。代表的な例としては、夜になると何も見えない(夜盲)、見える範囲が狭くなっていく(視野狭窄)、視力の低下や色覚の異常などがあります。症状が進むと、失明してしまうケースもあり、現在、まだ治療法が見つかっていない眼の難病です。この病気を抱える人の中には、自分がある日突然見えなくなってしまったら、という不安を抱えながら毎日を過ごしている人も少なくありません。
成長してから網膜色素変性症になると、眼が見えにくくなったことで自信を失い、周囲に迷惑をかけることを恐れて外出できなくなったり、恥ずかしくて白杖を持って出歩くことをためらう人もいます。光がまぶしく感じられるため、サングラス(遮光眼鏡)をつけて外出したり、暗い場所に入ったときや、急に明るいところに出ると、まったく見えなくなってしまうこともあります。視野が狭くなると、すぐ近くにあるものに気づかなかったり、人にぶつかりやすくなります。駅のホームから足を踏み外して落ちたり、わずか1センチの段差でもつまずいて転んでしまう場合も少なくありません。また、病気が進むと、それまでの仕事を続けられなくなったり、新たな働き口を見つけるのが難しくなり、生活していくうえで、さまざまな困難が生まれます。しかし、病気になっても、QOL(生活の質)を高めるための道具や設備を活用し、周囲の理解を得ながら、自立し ていくための努力を続けていて、仕事や家事・育児でがんばっている人、音楽やスポーツやさまざまな分野で活躍している人はたくさんいます。
網膜色素変性症の病状進行具合や症状の起こる順序は、人によって異なります。特徴的な症状は、夜盲、視野狭窄、視力低下かの3つですが、最初に視力が低下してから夜盲を自覚する人もいます。この病気には、現在のところ根本的な治療法がありません。治療法の開発に向けては、①網膜神経保護、②遺伝子治療、③網膜幹細胞移植、④人工網膜などの研究が全世界で盛んに行われています。最近は、ES細胞やiPS細胞を用いた再生網膜の移植手術を行う、網膜再生治療の研究が、国内外で活発に行われています。
網膜色素変性症を抱える人たちのために、現在、多くのボランティア、支援者が活動を続けています。また、生活するうえで便利な道具も販売されています。しかし、見え方や困っていることは、患者によってさまざまです。また、まわりの人も、病気の人自身も気づいていないことがたくさんあります。手助けするうえで大切なことは、まず、「どうしたらいいか」「何をして欲しいか」を病気の人に聞くこと。同じ立場で接するという気持ちが、支援するうえでもっとも大切だといえます。 また、治療方法が見つかるのを待つだけでなく、日々、研究に励んでいる医師・研究者を積極的に支援することも大切です。治療法の研究には大変大きなお金が必要ですが、患者やその家族は、少しでも役立ててもらおうと、お金を出しあったり、募金活動を行っています。これからは、さらに多くの人に病気のことを知ってもらい、支援の輪を広げていく必要があります。
網膜色素変性症は、今も治療法が見つかっていない「眼の難病」です。しかし、患者や研究者、支援する人たちは、必ず治ると信じ、一歩一歩、着実に前進しています。
特定非営利活動法人 網膜変性研究基金(愛称:もうまく基金)は、2008年8月、日本網膜色素変性症協会(JRPS)を母体として設立され、現在、治療法の研究を支援する活動を続けています。
1日も早く治療法を確立するためには、多くの方の支援が必要です。この冊子をご覧頂いて、もっと網膜色素変性症のことを知りたい、この病気で苦しんでいる人たちを支援したい、など、ご興味をお持ちになったら、ぜひ、お気軽にお問合せください
http://www.moumaku.jp/